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広島高等裁判所岡山支部 昭和38年(う)131号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

<前略>

所論は、いずれも要するに、「原判決は、被告人の本件媒介行為をもつて、宅地建物取引業法第一二条第一項に違反し、同法第二四条第二号に該当するものと判断しているけれども、本件において、被告人が売買の媒介をなした土地はいずれも農地であつて、同法第二条第一号にいわゆる宅地ではないのであるから、被告人の右媒介行為は、同法による規制の対象に属せず、本件は、罪とならない場合に該当するにもかかわらず、これを有罪とした原判決は、法令の解釈、適用を誤つたものである」というにある。

よつて按ずるに、被告人が昭和三三年八月頃から昭和三六年一月頃までの間、前後一二回にわたり、原判示のように、売買の媒介をなした土地がいずれも農地であつたこと、右売買に当り、各当事者は、該農地を宅地に転用せんがための所有権の移転につき、農地法所定の手続を経て、県知事の許可を受けたこと、而して、被告人は、宅地建物取引業者としての所定の登録を受けていたものでないことは、記録上明らかである。ところで、原判決は、被告人の右媒介行為をもつて、宅地建物取引業法第一二条第一項に違反し、同法第二四条第二号に該当するものと判断しているものであるところ、所論は、被告人が売買の媒介をなした土地は、いずれも農地であり、従つて、同法第二条第一号にいわゆる宅地ではないということを前提として、無罪を主張するにあるのであるが、抑も、宅地建物取引業を営む者の登録を実施し、その事業に対し必要な規制を行い、もつてその業務の適正な運営を図ることにより、宅地及び建物の利用を促進することが同法の目的であることは、同法第一条において明示されているところであつて、結局、その主眼とするところは、終戦後の急激なる住宅事情の悪化に伴い、宅地及び建物の取引を業とする者が激増すると共に、往々、悪徳業者が横行して、不正の利益を貧る等まことに目に余るもののあつた実情に鑑み、宅地建物取引業を営む者の登録の実施によつて、かかる悪徳業者の介入を排除し、且、これを厳重に取締つて、宅地及び建物の取引の公正を確保し、もつて国民生活の安定を囲らんとするにあるものであることは、更にいうまでもない。さて、同法第二条第一号によれば、同法にいわゆる宅地とは、建物の敷地に供せられる土地をいうものと定義されているのであるが、同法の右のような立法目的より考察すれば、同法にいわゆる宅地の中には、現に、建物の敷地として使用されているか否を問わず、公簿上の地目が宅地となつているすべての土地が含まれるのは勿論のこと、公簿上の地目が宅地となつていない土地でも、苟くも、建物の敷地として使用する目的をもつて取引されたものである限り、これ亦同法にいわゆる宅地の中に含まれるものと解するのが相当である。即ち、たとえ、売買その他の取引の目的物たる土地が農地である場合でも、その例外たり得るものではなく、右同様に解すべきものであることは当然であつて、農地法上農地を宅地に転用せんがための権利移動について制限が設けられているからとて、これを根拠として、該土地の宅地性を否定すべきではない。本件についてこれをみるに、被告人が原判示のように売買の媒介をなした農地は、いずれも建物の敷地として使用する目的でその取引がなされたものであつて、現に、各買主において、既にいずれもこれを宅地となし、工場住宅等の敷地として使用していることは、原判決挙示の各証拠によつて明らかであるから、右売買当時、該農地は、いずれも宅地建物取引業法にいわゆる宅地の中に含まれる土地であつたものと断ぜざるを得ない。而して、被告人は、業として本件媒介行為を行つたものであるとの原判決の判断の相当であることは、後段において説示するとおりであるから、如上の判断と同趣旨に出で、被告人の原判示所為をもつて、宅地建物取引業法第一二条第一項に違反し、同法第二四条第二号に該当するものとした原判決の判断は相当であつて、原判決には、所論にいうが如き法令適用の誤はないから、論旨は、いずれも理由がない。<以下省略>(裁判長裁判官組原政男 裁判官西尾政義 谷口貞)

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